書籍のご紹介・介護記録の学校

介護記録の学校

介護記録の学校

津田式ケアプラン活用法

日総研出版社より発行

初版発行:平成16年10月27日発行

初版第6刷:平成18年12月21日発行

【主な内容】

『介護記録の書き方』をていねいにやさしく解説。新人スタッフでも手に取るように理解できます。介護記録勉強会の教材にも最適です。

はじめに

平成12年3月、介護老人保健施設国府リハビリテーションフェニックス(以下、フェニックス)では記録の保存義務期間をとっくに過ぎた古いカルテを焼却処分しました。それらは開設から6年間試行錯誤しながら一生懸命書きとどめ、多くの思い出が詰まった記録で、中には家族に見せたかったと思う利用者と介護スタッフの心をつづったものもあり、捨てがたいものでした。フェニックスでケアサービスを受けている要介護高齢者の多くは、認知障害・麻痺・言語障害などのため、話す・書くなどの意思伝達能力に乏しく、家族側は生活やケアの状況を記載した介護記録に目を通すこともなく、利用者の様子を知らずじまいでした。すでに他界した方の記録は、家族にとって貴重なものではなかろうかと思い、許されるならば遺族へ差し上げたいと思いました。

フェニックスでは、平成11年からの施設ケアプラン策定に際し、利用者・家族へアンケート調査を行い、ケアへの要望やサービスへの満足度を把握してケアの見直しを心掛け、家族には近況を報告したお便りや写真を送付し、加えて集・月ごとの施設生活の状況やケアの状況をまとめたアセスメント表を渡し、情報の提供に努めてきました。それでも家族から「元気にしておりますか?」と問われることもあり、サービス提供の不足を感じ、ケア記録を公開するかコピーして差し上げれば家族の不安や心配を和らげてあげられるのでは、と考えました。

その一方、家族が介護記録を見るとなると、施設のケア姿勢もわかるようになるため、ケアや記録に対して家族からクレームや要望が出てくる可能性もあり、関係部署とのすり合わせ、施設のケアシステムの整備、介護スタッフのスキルアップなどが求められるのではないかと不安に感じました。しかし、そこで臆していたのでは、記録やケア、介護スタッフの言葉や態度、ケア管理体制に潜む施設本位、業務本位の風潮を払拭することは難しいと感じました。

そして、“利用者満足のために記録開示をしたい!”という気持ちにチーム全員がなれたら、これらの課題解決が図れるのではないだろうか、希望・期待をもつことができました。早速、平成14年6月、フェニックス経営者から「記録開示」の許可を頂き、「“介護記録は利用者が施設で過ごした生活の証”だから、ご家族へ差し上げよう!」と全介護スタッフに呼びかけ、介護記録(A4サイズ2枚分)のコピーの家族への郵送を始めまし。中にはご希望によって、毎月お送りしている方もいて、つたない記録ですが非常に喜んで頂いております。

近年は、医療上の事件や事故が頻発していることから、医療機関では患者や家族からの要望があればカルテ開示が行われるようになってきています。また、利用者の人権の尊重が重視されるようになり、グループホームでは平成14年から第三者評価が義務づけられました。さらに、国は平成15年の介護報酬改定に伴い、「施設サービス計画書」について介護保険施設では入所者に同意を得て交付することを規定しました。このことは、利用者・家族にとって大変喜ばしいことです。

私は、この改定の裏には、“その次に波及する事象”を含んでいると推察しました。それは、実施後の報告の必要性です。例えば、「事業計画書」を出すと「報告書」が必要であり、クレームが発生すれば是正措置が必要となるように、「施設サービス計画書」を提示あるいは交付すると、必然的に実施後の報告の必要性が生じます。したがって遅かれ早かれ「記録の開示」を家族から要求される時期がくるのではないかと予測したのです。

そのような将来を見込み、平成15年4月以降は、ご家族と面談の上、施設ケアプラン・各アセスメント表に同意を頂いた後にお渡しして、施設・家族間での情報の共有を図るように努力してきました。

介護記録の記載内容についてはいろいろな意見があり、「何を書くのか、書くべきなのか」などの疑問が出て、解釈も確定しておらず、介護記録への理解も十分ではありませんでした。しかし、記録の開示により、利用者・家族からの満足が得られるか否かによって評価されることと、何を書くべきかが少しずつ明らかになってきました。

家族が希望する内容は、食事の状態、水分摂取量、排泄、身だしなみなどのADLに関すること、発熱、検査、血圧、受診の結果などの身体状態、行動、睡眠、本人の要望などの生活に関する項目など広範囲に及び、「どのように過ごしているのか?」という視点から記録を見ています。そのため、読み手側のニーズに応える気持ちで記録する必要があります。

記録の開示を実践してから2年余り経ち、家族からは「生活状態やケアの状況を把握できるので嬉しい」と大変喜ばれ、利用者側も、介護スタッフとの対話や訪室回数が増えたことにより馴染みが深まり、笑顔や発語が増えてきました。その効果もあってか、徘徊や不穏行動なども減少してきたように感じます。

介護記録は多くのメッセージを受け手に提供します。記録を開示すると、そこからは記録者の資質のみならず、施設理念や方針、職場の雰囲気、施設のハード・ソフトの実態も浮かび上がってくるため、組織を挙げてよいケアを追及せざるを得なくなります。

将来的に、全国の施設で記録を開示するようになれば、施設と利用者との間の垣根が低くなり、ケアサービスの自由競争や多様化、ケアの発展につながり、利用者・家族・介護スタッフ・地域の人々が楽しみや生き甲斐を感じるユートピア(=明るい「高齢者ケア」)の実現も夢ではないかもしれません。

夢に向かって、まずは身近なところから。これまでの介護記録を振り返り、介護保険施設における適切な介護記録の書き方について考えてみたいと思います。

著者  津田祐子

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